ローマ人の物語 (23) 危機と克服(下) (新潮文庫)

ティトゥスはヴェスパシアヌスの長男。彼ほど良き皇帝であろうと努めた人もいなかったと著者に言わせた人物だが二年で病で亡くなる。享年４１歳。だがその間にヴェスヴィオ火山の噴火（ポンペイ）、ローマの大火と災難に見舞われる。ヴェスヴィオ火山を如何叙述するかの難問に著者は直面したと。曰く、ローマ史上では数ある事件の一つに過ぎなかったことが後世になると大変に重要な意味を与えられる事件に変容するがそれを如何扱うか。ユダヤ戦役も同様の事件だと。そのためヴェスヴィオ火山の噴火も必要不可欠なことのみの記述に留めるとしている。が、これがなかなか興味深い。この話に現場証人がおり、そのレポーターの手記まで残っておりそれが紹介されているのである。ティトゥスの後を継ぐのが弟のドミティアヌスだが、彼は記録抹殺刑で断罪された皇帝である。彼以外にはネロがいる。さあ、こういう状況が著者の本領発揮である。記録抹殺刑となったからと言って果たして実際にそれ程酷かったのか？そこに焦点を当てるのがこの著者の特色なのだろう。公共事業、ゲルマニア防壁（リメス・ゲルマニクス）など前向きな案件を重要視している。著者の人間性への観方だが彼女の判断の基準にしたことが一つあると。曰く、最高統治者である皇帝が成したことが共同体、つまり国家にとって良いことであったか否かを判定するにあたって、タキトゥスをはじめとする歴史家の評価よりも、その皇帝につづいた皇帝たちが、彼が行った政策ないし事業を継承したか、それとも継承しなかったか、の方を判断の基準にすえたのである、と。この計器で判断すると、ドミティアヌスが行ったリメス・ゲルマニクスは以後の皇帝たちでその補強に心を使わなかったものは人はおらず、最大の功績であったと。だがドミティアヌスは４５歳を迎えるところで暗殺される。皇后ドミティアつきの解放奴隷だったと言う。後任はネルヴァ、７１歳の高齢である。そして彼はトライアヌスの後継者に指名。１年と４ヶ月の治世後自然死した彼の後の皇帝となる。この章の付記にマルティリアヌスと言うエピグラムの達人と称される人物を紹介しており、その一部を紹介している。このマルティリアヌスのパトロンになったのがドミティアヌスだった。この内容が今読んで尚褪せない。一つ紹介すると、人生を愉しむのは明日からにしよう、だって？それでは遅すぎる。愉しむのは今日からであるべきだ。いや、より賢明な生き方は、昨日からすでに人生を愉しんでいる人の生き方ですよ。