Newton別冊『体と病気の科学知識 新装版』 (ニュートン別冊)

からだと病気の科学知識ということで、通常生理の裏返しとしての病理学的アプローチをとった本です。まずは胃腸（消化器）をはじめ各種臓器に関連する病態生理を特集し、免疫機構にまで及んでいます。次にアレルギーなど悩ましい状態について解説し、遺伝子にまで及んでいます。本書を読めば、病気というもののイメージがだいぶん固まるのでは。本書にもあるとおり、からだは一つのシステムであり、各種臓器は互いに連関しあっています。なぜなら、ある一つの臓器の機能低下（構造病変を伴う場合も）は他の周辺臓器にも多大な影響を与え、連鎖的な機能低下をもたらしうるからです。ごく一般的な体調不良の中には、そうした全般性の機能低下も含まれ、ときに漢方などが処方されましょう。漢方医は未病に敏感であり、いまだ病気ではないけれど、放っておくと病気に発展しかねない状態を見逃さず、からだの調子をじわじわと整え、快方に向かわせる療法です。さて、当方の専門分野はとくには免疫機構とアレルギーなどの自己免疫疾患、また精神医学全般ですが、ここではとりあえず免疫と自己免疫疾患について少しお話しましょう。免疫というのはからだが異物に対して拒否反応をし、余計な病気から守る生体防御反応の一種であり、大きく液性免疫と細胞性免疫があります。液性はいわゆる抗原抗体反応であり、B細胞が産出する抗体が抗原に対して異物認識し、退治するというものです。一方で細胞性は各種Ｔ細胞が直接異物を認識し、攻撃するもので、ツベルクリン反応はこちらに含まれます。抗体の多様性は利根川進博士らが免疫グロブリンについて明らかにしたように、素早く進化する抗原に対抗できる有益なものです。ところで、膠原病とか慢性関節リウマチ、あるいはシェーグレン症候群というのがあるのはご存知でしょうか。それは結局自己免疫疾患です。免疫機構は通常自己を同種として攻撃しませんが、免疫異常では自己をも異物として攻撃してしまい、アレルギーなど厄介な状態を惹起します。そのしくみの一端に触れると、細胞性免疫のＴ細胞は胸腺という臓器で教育訓練を受けるのですが、その際になんらかの異常が生じ、T細胞が教育不全をきたし、自己の関節などを攻撃してしまうのです。その典型例がリウマチなのですが、近年リウマチを含むいくつかの典型症状を包含する概念として、シェーグレン症候群が取り沙汰されることが多く、要注目です。いわゆる単一疾患ではありませんが、重症化するとかなり厄介な「症候群」です。単一疾患でないので特効薬はなく、とりあえず多剤投与で解決するしかないようです。より詳しくは本書をお読みになってみてください。因みに、当方は医科学、人類学・文化人類学、精神看護学を専門としており、最近医科学についてはNIEアプローチ（神経・免疫・内分泌の相関機構）を深く探究しているほか、人類学・文化人類学～精神看護学についても医療人類学サイドからの研究を行っています。フィールドは卒論「食文化の中心と周縁」（東大教養学科文化人類学研究室に提出）をものして以来、環地中海のラテン地域（具体的にはフランスやイタリア、スペインなど）、中国南部（とくに広東省～香港）、沖縄（ルクネシア地域）に設定しています。今後はそれらのフィールドをたえず意識しながら、比較生態人類学的研究を目指し、ヒトの健康や老化について日常の食生活と関係づけながら思案してゆきたいです。